038姉崎山王山古墳出土の環頭大刀

更新日:2022年04月18日

木對和紀

遺跡所在地

姉崎

時代

古墳時代後期

 姉崎山王山古墳(あねさきさんのうやまこふん)は姉崎古墳群を構成する1基で、全長69メートルの前方後円墳です。姉崎神社本殿から南西約250メートルの地点にかつて存在しましたが、1963(昭和38)年に建設工事によって失われる寸前に緊急調査が行われ、金銀装単龍環頭大刀(きんぎんそうたんりゅうかんとうたち)や金銅装表飾付胡ろく(矢の容器)をはじめとする様々な優品が副葬品として出土しました。今回は、これらの出土遺物の中でも保存状態が良好だった金銀装単龍環頭大刀を紹介したいと思います。

千葉県市原市山王山古墳で出土した金銀装単龍環頭大刀の大刀環頭部の写真1

写真1 山王山古墳出土大刀環頭部

千葉県市原市山王山古墳で出土した金銀装単龍環頭大刀の大刀環頭部の写真2

写真1 山王山古墳出土大刀環頭部

 山王山古墳出土の金銀装単龍環頭大刀は、環頭部の楕円環が龍の胴体と脚を忠実に描いており、楕円環の胴体からのびた単独の龍が、火炎を放射している様子が鋳造されています。
 柄つか部には4か所の金銅装縁金具ふちかなぐがはめられ、縁金具の間には銀板の帯状金具が2か所に配置、環頭寄りの銀板には6弁の花紋装飾が施されています。柄の握り部には、銀線が巻かれ、素晴らしく精巧な造りとなっています(写真1)。

千葉県市原市山王山古墳で出土した金銀装単龍環頭大刀の全体写真

写真2 山王山古墳出土大刀

 鞘さやは外装を蕨手わらびて風の文様を施した銀板で包み、44個のハート形の猪目透いのめすかしを施した金銅製の化粧板で留められています。
 鞘尻さやじりは、銀版と金銅製縁金具からなり、その先端部の鐺こじり部には厚さ5ミリメートル程の鹿角装鞘当てをはめ込みブロンズ釘2本で蟹目状に足高に止めています(写真2)。

 このような精巧な作りの環頭大刀で、環頭から鞘尻まで良好な保存状態で出土した例は国内では類例が乏しく比較は難しいのですが、朝鮮半島の百済くだらの武寧王陵ぶねいおうりょう出土環頭大刀はよく似ており、龍の形がこれよりやや簡素なことから、製作年代は山王山古墳出土資料の方が少し新しくなると思われます。武寧王の没年が523年であることや、山王山古墳副葬品に含まれる鉄鏃の組み合わせが6世紀前半から中葉の特徴を示すことから、山王山古墳の下限は6世紀中葉に求めることができるでしょう。
 銀線巻きの柄は、国内では藤の木古墳出土の大刀にも認められ、当時の装飾大刀の中でも格上の製品だったと考えられます。山王山古墳の被葬者がいかに有力な人物だったかを物語る重要な資料と言えるでしょう。

参考文献

上総山王山古墳発掘調査団1980年『上総山王山古墳発掘調査報告書』市原市教育委員会

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