030西広貝塚から出土した縄文時代のウンコ(糞石)

更新日:2022年04月18日

鶴岡英一

遺跡所在地

西広

時代

縄文時代

 糞石(ふんせき)とは、「排泄物である糞が形状を保ちつつ化石化したもの(千浦1983)」で、西広貝塚からは全部で26点出土しています。このうち発掘調査中に採取されたのはわずか4点で、残りは貝塚から持ち帰った貝層サンプルを水洗選別しているときに見つかりました。いずれも縄文時代後期前葉(堀之内式期)の貝層ないし貝層直下から出土したものです。

複数の人が西広貝塚斜面貝層で調査を写真

西広貝塚斜面貝層の調査風景(縄文時代のウンコはここで見つかった)

 26点の資料のうち3点は糞便の形状をほぼ完全に留めていて、このうち2点がコロ状をしています。糞の端部が認められるものは14点あり、丸いもの、尖るもの、平らになるものが確認されました。このうち丸いものは排泄時の先端部、尖るものはしぼり痕で末端部、平らになるものは節から両端が外れた中間部と考えられます。もろく弱いため、土を完全に落とし切れていませんが、にぶい黄橙色のものが多く、灰白色のものもあります。
 大きさは大小2種類に分けられ、小型のものは小指ほどの太さしかありません。大小の差は、落とし主や成長段階の違い、あるいは体調にもよるものかもしれませんが、よくわかりません。

西広貝塚から出土した糞石の写真

西広貝塚から出土した糞石

 糞石の多くはイヌによるものと考えられていますが、雑食性の動物では形態がよく似ることから、かたちから落とし主を判別することは困難とされています。西広貝塚から出土した糞石に関しては、肉眼で観察される内容物は魚骨片が目立ち、多量に含まれるものがありますので、やはりイヌによるものが多いのかもしれません。

糞石の割れ口の写真

糞石の割れ口(魚の骨をたくさん含んでいる)

 かたち以外で糞の落とし主を推定する手段のひとつに、なかに含まれる寄生虫卵を調べる方法があります。縄文時代のものでは鳥浜貝塚(福井県)と里浜貝塚(宮城県)で分析が行われ、「鞭虫卵、異形吸虫類、マンソン裂頭条虫卵、毛頭虫類」が見つかっているそうです。
 数量が少なく断定はできないようですが、鞭虫はヒト、マンソン裂頭条虫は肉食動物に寄生することから、鞭虫卵を含むものはヒト、マンソン裂頭条虫卵を含むものはイヌの糞便の可能性が高いとされています(金原1999)。

 西広貝塚から見つかったウンコの落とし主は誰なのか。西広貝塚に暮らした縄文人はどこでウンコをしていたのか。興味は尽きません。

西広貝塚の埋葬犬の写真

西広貝塚の埋葬犬(西広貝塚で見つかったウンコの落とし主か?)

引用・参考文献

  • 千浦美智子 1983「7 糞石(コプロライト)」『縄文文化の研究第2巻 生業』雄山閣 284ページ~296ページ
  • 金原正明 1999「第8章 寄生虫」『考古学と自然科学2 考古学と動物学』同成社 151ページ~158ページ

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