048畑木小谷遺跡の線刻土器

更新日:2022年04月18日

北見一弘

  • 遺跡所在地:畑木
  • 時代:弥生時代終末期〜古墳時代前期

畑木小谷遺跡の線刻土器(9号遺構)(市原市教育委員会1999より)

 図の1に示した遺物は、市原市の海浜部に近い畑木小谷(はたきこやつ)遺跡から出土した小型の器台形(きだいがた)土器です。器台というのは、文字通り器を乗せる台として機能した土器の名称です。この土器は器台の脚部裾の破片で、大きさは6.4センチメートル×3.8センチメートル、厚さ0.6センチメートルを測ります。脚の直径は13.9センチメートルを復元できます。この土器が使われた時期は、出土した竪穴建物跡(9号遺構)が隅の丸い四角であることや、建物の中から共に出土した土器の様子から、弥生時代終末期後半と考えています。

中央に大きな亀裂があり、表面が削られて模様のついた土器の破片の写真
出土した土器の破片の形や模様を描いたイラスト

 この器台形土器の大きな特徴は、器の表面に文様または絵が描かれていることです。多くの器台形土器は、文様が無く、土器の表面を丁寧に磨いていますが、この土器は、磨いた後、焼成する前に、先の鋭い工具で線を描いています。
 文様の構成を見てみると、僅かに弧を描く3本1組の並行する線が水平に描かれ、破片中央部で一度途切れます。その途切れた端部2か所に、直交して垂下する2本1組の線が接続しています。この2本1組の線のうち一方は、途中で屈折して弧を描き、水平方向に伸びており、そこへもう一方の垂下した2本1組の線が接続しています。また、先に見た3本1組の弧線の最下段は、下方に伸びるに擦痕状の直線と、放射状に広がる弧線の起点になっています。最も外側には唯一1本で描かれた弧線が脚の端部に沿って伸びており、これが文様の区画線である可能性があります。
 以上、文様の構成を見てきましたが、この資料が小片であることと、同じパターンが見られないことから、残っている文様は基本となるパターンの一部でしかない可能性が高いと言えます。ですからここから全体像を復元することは困難でしょう。しかし、少なくとも弧線と直線の組み合わせによって文様を構成しているとは言えそうです。

組帯文土器の類例と参考資料(北島2004・中居2013より)

様々な遺跡や古墳で出土した文様のついた土器やその破片のイラスト

 このような構成で思いつくのが直弧文石枕(姉崎二子塚古墳)ですが、この土器には直弧文に特徴的にみられる、直線的なX字状、I字状の区画が認められないことから、それとは言えないでしょう。ここでは直弧文の祖形と考えられている、組帯文(くみおびもん)という文様である可能性を考えたいと思います。また、伊勢湾地方で見られる壺形土器には、組帯文と組み合わされる人面文がありますが、本資料は、その可能性も否定はできないものの、遺存部からは判別することはできません。

 組帯文は、弧帯文(こたいもん)とも呼ばれ、吉備地方では円筒埴輪のルーツとみられる特殊器台への施文例を代表として、近畿地方を中心とした西日本で、土器や木製品、石に刻まれた例が確認されています。この文様は、西日本でも特殊な意味合いを持たせた遺物や、場面での使用が考えられることから、非日常的な性格を持った特殊な文様と捉えられています。
 本資料が組帯文であるとすれば、市原の弥生土器には、このような文様の系譜は認められませんので、地域外から伝わってきた文様と言えるでしょう。類似した資料から、西日本、特に伊勢湾地方から伝わった可能性が考えられます。土器自体が西から運ばれてきたかというと、自然科学的な分析を経てはいませんが、胎土の肉眼観察からは、在地で作られた土器だと考えられます。
 では、文様の伝わったことが何を意味するのか。この文様を描ける人間が来た、もしくはこの文様を見た在地の人間が真似をした、いずれにせよ、非日常的な文様をこの地で施文する必要性があった結果、この土器は存在するのでしょう。そう考えれば、文様そのもの以外にも、そこに付与されている特殊な意味や行為がセットとしてもたらされているとは言えないでしょうか。
 いわゆる「邪馬台国時代」、列島規模での遠隔地交流が活発だった様相の一端が、ここでも確認できます。

参考文献

詳細は下記リンク「平成10年度市原市内遺跡発掘調査報告」欄をご覧ください

北島大輔2004「組帯文の展開と地域間交流」『駿台史学』第120号 駿台史学会
中居和志2013「近江地域の弧帯文」『古墳出現期土器研究』第1号 古墳出現期土器研究会

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