ノート001イヌと縄文人の絆【考古】

更新日:2022年04月18日

研究ノート

鶴岡英一

 イヌは、人類が最初に家畜として飼いはじめた動物と考えられています。縄文時代の遺跡からは、埋葬されたイヌの骨が見つかることがありますが、他の動物が埋葬される事例が極めてまれであることからも、縄文人とイヌとの密接な関係を窺うことができます。
 市内からは草刈貝塚・根田祇園原貝塚・西広貝塚の3遺跡から、埋葬されたイヌの骨が見つかっています。写真1は西広貝塚から発見された縄文時代後期の埋葬犬ですが、このイヌの上顎を詳しく観察してみると、写真2のように、前歯(切歯)や牙(犬歯)が抜け落ち、この部分の歯茎(歯槽)がふさがっている様子が認められました。これは、歯が抜け落ちた後も生き続け、傷が治っていたということを表しています。

土の中から所々骨の一部が見えてきている状態、骨が多く重なっているところに赤い丸で印をつけいている白黒写真

写真1 イヌの埋葬状況 埋葬された人骨を壊して埋められています。
ここには2体のイヌが折り重なるようにして埋められていました。

 では、丈夫な犬歯まで破損してしまうような原因とは、どのようなことが考えられるのでしょうか?
 縄文時代の生活基盤は、狩猟・採集を基本としていたと考えられていますので、イヌの大きな役割のひとつに、狩猟犬として使われていたことが考えられます。

茶色い先が細った犬の上顎の形をした化石から、奥歯にあたる部分の歯だけが残っており、他の歯は全てなくなっている様子の写真

写真2 上顎の切歯と犬歯が抜け落ちている状況。

 縄文人にとっての主な狩猟の対象はシカとイノシシですが、これらの動物は現代のものよりも大きかったようですので、弓矢や石斧のような道具しか持たない縄文人にとって、狩猟の際にイヌの果たす役割は、非常に大きなものであったはずです。一方、現在の柴犬程度の大きさしかなかった縄文犬にとって、これらの大型動物と格闘することは、まさに命がけであったことでしょう。
 縄文人にとってイヌとは生活に密着した存在であり、かけがえのない大切な財産であったからこそ、傷を負った後もいつくしみ、保護し続け、死後は丁寧に埋葬するという行為が行われるようになったのでしょう。

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