ノート041放射性炭素年代測定と古墳のはじまり【考古】

更新日:2022年04月18日

-ここまでわかった市原の遺跡 第4回遺跡発表会「邪馬台国時代のいちはら」展示から-

研究ノート

小橋健司

はじめに

 近年、考古学に応用される自然科学分析が大きく進歩したことで、遺物の形状や出土層位の上下関係などによらなくとも、遺物そのものの年代を推定できるケースが増えてきました。特に目覚ましい成果をもたらしているのが年輪年代測定法と放射性炭素年代測定法です。
 年輪年代測定法は、木製品の年輪幅のパターン(寒い年は狭く、暖かい年は広い)を年代の明らかな木から作られた標準パターンと対照することで、木材の年代を知ることができるというすぐれた分析手法です。樹皮が残っている場合には伐採年まで1年単位で絞り込むことができます。 放射性炭素年代測定法は、遺物などに含まれる炭素の放射性同位体(電子の数が違う仲間)の比率を、モデルと比較してその減少量から年代を推定する方法です。
 今回は、当センター調査資料を対象に実施した放射性炭素年代測定の結果を紹介したいと思います。

ピンセットを使って土器の表面の炭化物を採取している写真

写真 土器表面の炭化物の採取(加速器分析研究所)

神門3号墳下層資料

図1 神門3号墳下層出土土器付着炭化物の放射性炭素年代測定結果(加速器分析研究所作成)

測定対象資料と結果

 測定した3点(A:IAAA-143325、B:IAAA-143326、C:IAAA-143327)は神門3号墳の墳丘盛土の下から見つかった甕形土器(タタキ甕)外面に付着した炭化物です。甕形土器は現在の鍋のように煮炊きに用いられた容器で、内面にオコゲ、外面にススや吹きこぼれの跡が残っていることがあるため、食べ物や燃料の草木に由来する炭素を分析することが可能です。
 測定の結果、Aは1850±20、Bは1860±20、Cは1890±30、という年代(四捨五入)が推定できました。この数値は炭素年代(yrBP)と言って、過去の環境が一定であったという仮定に基づく、いわば生の数字に当たります。この値を現実的な想定で補正したものが、較正年代(こうせいねんだい)です。上の図1で言うと、左の縦軸沿いの赤い部分が測定値の確からしい範囲で、それを右下がりの青い帯、較正曲線(IntCal13というバージョン)に当てはめた(右に延長して曲線にぶつけて下に投影した)結果が、横軸の黒い部分になり、現実世界により近い年代推定値が得られたことになります。ちなみに、IntCal13には福井県水月湖(すいげつこ)の湖底堆積物が持つ1年ごとのしましま(年縞(ねんこう))から得られたデータが採用されています(中川2015)。
 較正結果を見ると、Aは西暦128年から214年である確率が68.2%、西暦86年から232年である確率が95.4%と算出されています。Bは西暦94年から96年と125年から214年が68.2%、西暦85年から225年が95.4%、そして、Cは西暦77年から129年が68.2%、西暦55年から177年と190年から225年が95.4%、となっています。

日本産樹木による較正曲線グラフ

図2 測定結果と日本産樹木の炭素年代(春成他2011:図10を加工)

 図2は日本産樹木を測定した結果による曲線(春成他2011)に、上記の値を当てはめてみたものです。本来は最新のデータベースに準拠したキャリブレーションプログラムによって確率分布を示す必要がありますが、暫定的に値の該当する部分を表示してみました。
 比較すると、図1の曲線と日本産樹木の炭素年代による曲線が異なるため、やはり較正結果も変化するようです。誤差範囲の幅では、AとBが3世紀前半、Cが2世紀初めから3世紀前葉に当てはまるように見えます。おそらくグレーの曲線を用いる推定年代は、図1の場合より新しい方へずれるのでしょう。正確な較正結果は後日、改めて報告したいと思います。

おわりに

 今回の測定対象は、弥生時代から古墳時代への移行期に位置づけられる神門3号墳の墳丘下の土器ですので、測定結果は墳丘築造の上限を示すと考えられます。今後、正確な較正年代が得られれば、市原における古墳時代のはじまりを考えるための重要なヒントになるでしょう。
 ただ測定値について注意しなければならないのは、土器外面付着炭化物が燃料に使われた木材の年代を示しているだけなのかもしれず、それが古い樹木に由来する可能性も否定できないことです。もちろん理想的な場合には、燃料が一年草であったり、コメを炊いた吹きこぼれに由来するなど、大きな時間差を見積もらなくて済む年代が得られる可能性もあります。
 いずれにしろ、このような不確定部分を少しでも解消するには、対象資料を増やしてデータを蓄積し、土器型式など他の考古学的事象との整合性を確かめながら、厳密に検討を加えていくことが必要でしょう。まず分析事例を積み重ねることが、イレギュラーな値や条件的な偏りを認識することを可能にし、測定内容を正当に評価することにつながると思います

<本コラムは第4回遺跡発表会「邪馬台国時代のいちはら」展示資料について補足説明するものです。分析対象資料を含む展示は平成28年2月27日から3月13日まで行っています。この機会にぜひご覧ください。>

参考文献

財団法人市原市文化財センター1989「神門3号墳」『市原市文化財センター年報 昭和62年度』
中川毅2015『時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち』岩波科学ライブラリー242
春成秀爾・小林謙一・坂本稔・今村峯雄・尾嵜大真・藤尾慎一郎・西本豊弘2011「古墳出現期の炭素14年代」『国立歴史民俗博物館研究報告』第163集

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