ノート021西広貝塚出土の骨製垂飾品(1)【考古】

更新日:2022年04月18日

研究ノート

鶴岡英一

西広貝塚出土の垂飾品

 今からおよそ3500年前の縄文時代後期中頃(加曽利B式期)の貝層から出土したもので、ツキノワグマの基節骨(きせつこつ・指の付け根の骨)が使われています。一部破損していますが、現状で長さ25.4、幅14.7ミリメートルを測ります。先端側には横方向に穴が開けられていますので、ひもを通してペンダントのように使われたことが考えられます。内側には横方向に幅広の3本の溝が彫り込まれ、水銀朱(すいぎんしゅ)という貴重な赤い顔料が全体に塗られています。

画像1
画像2
画像3

加曽利南貝塚出土の垂飾品

 これとよく似た製品が、国指定史跡の千葉市加曽利(南)貝塚から見つかっています。西広貝塚と同じ加曽利B式期の貝層から出土したもので、指の内側の溝が2本という違いはありますが、ほぼ同じデザインに仕上げられています。

画像4
画像5
画像6

ツキノワグマと左手骨格図(赤が基節骨)

 ツキノワグマは頭胴長120から150センチメートル、体重70から120キログラムを測り、国内では本州、四国の落葉広葉樹林(ブナ林)を中心に生息します。これまでに全国80か所あまりの縄文遺跡からツキノワグマの骨が見つかっていますが、このうち約4割を東北地方が占めています。関東では埼玉県秩父地方の洞窟遺跡に多く見られますので、遺跡周辺の生息数を反映していると考えてよいでしょう。
 千葉県内から出土するツキノワグマは、加工が施されて製品となった犬歯や骨の一部しか出土していません。また、平野部に位置する千葉県には、現在はもちろん縄文時代にもツキノワグマは生息していなかったと考えられますので、これらの製品は山間部の遺跡からもたらされたものでしょう。
ツキノワグマの指骨を利用した垂飾品は、東北地方の縄文中期から後期の遺跡から数例見つかっていますが、穴を開ける以外の加工が施される事例はほとんどないようです。これに対し、西広貝塚と加曽利貝塚から見つかった垂飾品は、溝を彫ったり、赤く塗ったり、ひと手間をかけて付加価値を付けており、これは加曽利B式期の製品に見られる特徴といえそうです。あるいは、同時期の貝層から見つかったふたつの垂飾品は、ほぼ時を同じくして、同じ地域から運び込まれたものなのかもしれません。

黒色の体毛のツキノワグマが座っている写真
ツキノワグマの指骨で垂飾品として利用した部分を赤色でしめした左手骨格図

 ツキノワグマは、本州に生息する最大の陸上哺乳類であることから、狩猟民である縄文時代の人たちは、クマの持つ力に対して何らかの特別な価値を見いだしていたと考えられます。西広貝塚や加曽利貝塚に暮らした人々は、直接目にしたことはなかったであろうツキノワグマという動物を、歯や骨の一部から一体どのような姿としてイメージしていたのでしょうか。

参考文献

金子浩昌 1968年 「加曽利南貝塚の骨・角・牙・貝製品」 『加曽利貝塚II』 千葉市加曽利貝塚博物館
市原市教育委員会 2007年 『市原市西広貝塚III』

この記事に関するお問い合わせ先

市原歴史博物館

〒290-0011 千葉県市原市能満1489番地

電話:0436-41-9344
ファックス:0436-42-0133

メール:imuseum@city.ichihara.lg.jp

開館時間:9時00分~17時00分
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始