025姉崎台遺跡出土の黒曜石製尖頭器の原産地推定

更新日:2022年04月18日

池谷 信之(沼津市教育委員会)

遺跡所在地

姉崎

時代

縄文時代草創期

 姉崎台遺跡から出土している尖頭器は,比較的粗い剥離で身は厚く作られており,縄文時代草創期のものと考えられています。これまで市原市でも中高根南原遺跡などで草創期の尖頭器が出土していますが,これらのほとんどが近在の石材が使われています。ところがこの姉崎台遺跡出土のものは黒曜石製でした。
 黒曜石の産地は栃木県高原山,東京都神津島,長野県和田峠,同星ヶ塔などが知られていますが,いずれも市原市よりも100キロメートル以上離れた場所にあり,この石器は長い距離を運ばれて,最終的に市原市にもたらされたことになります。
 黒曜石製石器の産地を明らかにするためには,まず原産地の黒曜石を漏らさず集め,産地ごとの化学的特性を明らかにしておく必要があります。その上で遺跡から出土した黒曜石製石器の化学的特性を調べ,原産地のそれと対比照合します。
 今回の分析で原産地推定に用いた機器は「蛍光X線分析装置」と呼ばれるもので,物質にX線(励起X線)を照射すると,その物質に含まれる元素に固有のX線(蛍光X線)が発生することを応用して,元素組成を測定することができます。蛍光X線分析装置を用いる方法は,遺物を破壊せずに測定でき,石器1点あたりの所要時間が約数分と比較的短いことから,産地推定法の主流となっています。
 私が使っているのはセイコーインスツゥルメンツ社のSEA-2110という製品ですが,この装置を用いて中部・関東地方の黒曜石原産地22か所を測定した結果が,第1図・第2図にグレーのドットとして示してあります。産地推定には2つの判別図(グラフ)を用いますが,第1図のX軸にはルビジウム分率,つまりRb(ルビジウム)とSr(ストロンチウム)とY(イットリウム)とZr(ジルコニウム)の合計を100%としたときのRbの占める割合を用いています。Y軸はマンガン(Mn)と鉄(Fe)となっています。第2図のX軸はSr分率,Y軸はFeとK(カリウム)の比を用いました。

第1図

第1図

第2図

第2図

第1図・第2図には中部・関東地方の黒曜石原産地名を略称(WDHYなど)で示しましたが,部分的に多少の重複はあるものの,それぞれがよく纏まったグループを形成しています。どうしてこの指標を用いると原産地を区分できるのか,ということを説明するには専門的な化学や火山学の知識が必要となります。ここではこれらの元素が火山の噴火活動の推移や地盤の地域的な違いをよく示しているとだけ補足しておきましょう。
これに姉崎台遺跡出土の尖頭器を測定した結果を印で重ねてあります。第1図・第2図ともKZOB(神津島群恩馳島エリア)という結果で一致しました。
恩馳島は神津島の南西沖約5キロメートルに浮かぶ小島で(写真1),その周囲の海底には良質の黒曜石が累々と分布しています(写真2の黒っぽい石のすべてが黒曜石)。姉崎台遺跡出土の尖頭器はここで原石が採取され,海を渡って現在の市原市にたどり着いたことになります。また姉崎台遺跡の尖頭器とよく似たものが,静岡東部で大量に発見されており,これらの産地のほとんどが,神津島群恩馳島エリアでした。姉崎台遺跡の尖頭器は,静岡東部との繋がりをも示唆しています。いったん伊豆半島へ上陸したのち,陸路を辿って市原市にもたらされたのかもしれません。

荒波の寄せる恩馳島の写真

写真1 荒波の寄せる恩馳島

海底の黒く光る黒曜石の写真

写真2 海底の黒曜石

関連リンク

この記事に関するお問い合わせ先

市原市埋蔵文化財調査センター

〒290-0011 千葉県市原市能満1489番地

電話:0436-41-9000
ファックス:0436-42-0133

メール:bunkazai-center@city.ichihara.lg.jp
休所日:土曜日・日曜日・祝日