035西広貝塚から出土した牙鏃

更新日:2022年04月18日

鶴岡英一

遺跡所在地

西広

時代

縄文時代

 狩猟採集を生業の基本とする縄文人にとって、弓矢の果たす役割はとても大きなものでした。
 矢の端には貫通力を高めるための矢じりが装着され、石のほかにも動物の骨や角、歯牙などから作られたものが用いられました。
 下のグラフは西広貝塚から出土した石製鏃と骨角歯牙製鏃の出土量の推移を示したものですが、後期前葉(堀之内式期)には圧倒的に石製の割合が多かったのに対し、後期中葉(加曽利B式期)になると逆転していることがわかります。

鏃の材質別出土量の推移のグラフ

鏃の材質別出土量の推移

 後期後葉(安行式期)から晩期中葉(前浦式期)にかけても、両種はほぼ等しい割合で出土していることから、動物の骨や角、歯牙が鏃の素材として重要な位置を占めていたことがわかります。特に晩期には、骨角歯牙製のなかでも牙製(牙鏃・がぞく)の出土量が多くなるという特徴が認められます。

西広貝塚から出土した三角形やギザギザなどさまざまな形態の牙鏃6個が並べられた写真

西広貝塚から出土したさまざまな形態の牙鏃

 牙鏃の素材は、雄イノシシがもつ大きな牙(下顎犬歯)です。
 下の写真からわかるように、雄イノシシの牙の横断面は三角形を呈していますが、根元側が中空になるという特性を生かし、三角形の一辺を切り取って薄い板状にしたものを利用しています。牙は緻密で強く、垂飾(ペンダント)や腕飾など、さまざまな道具の素材となりました。

イノシシのオス(右側)とメス(左側)の下顎骨と犬歯の標本の写真

イノシシの下顎骨と犬歯の形態

 西広貝塚では、晩期になると貝塚の形成が低調になるいっぽう、骨塚を形成するほどにシカとイノシシを大量に捕獲していますので、素材が豊富に得られたことが背景にあったと考えられます。

西広貝塚から出土したおびただしい数の晩期獣骨層の写真

西広貝塚の晩期獣骨層

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