ここまでわかった市原の遺跡2 上総国分僧寺展9
ムラの寺

展示風景 このブースでは、民間における仏教のひろがりに目を向けています。
房総では、8世紀後半から9世紀後半という限られた期間の、仏教に関連する遺跡が多くみつかっており、その数は80を越えます。
これは民間への仏教信仰の広がりと理解されています。
ただ、仏教に関連する遺跡といってもその内容は様々です。
四面に廂が付く仏堂風の建物を中心に付属施設が取り囲むといった、我々が寺を連想し易いものから、仏具や「寺」「佛」の墨書がある土器のみ出土するものまであります。
この多様性は何でしょうか。
9世紀初めの仏教説話集『日本霊異記』など、文献からその様子は伺えますが、個々の遺跡をどう評価するのか、現在も検証が進められています。
ここでは、国分寺とは養老川を挟んで対岸にある萩ノ原遺跡を紹介し、官の寺以外の仏教信仰の様子についてながめたいと思います。

萩ノ原遺跡遠景 (南西から)
萩ノ原遺跡は、市原市上高根字萩ノ原の標高88メートルほどの台地上にあります。
このあたりは養老川と小櫃側の分水嶺にあたります。
周辺には川原井廃寺、二日市場廃寺などの初期寺院や、永吉台遺跡など仏教関連遺跡が所在します。

萩ノ原遺跡全景 (南から)
萩ノ原遺跡は、昭和51年(1976年)に発掘調査され、8世紀後半から10世紀初めの遺跡であることがわかりました。
遺跡からは、竪穴建物跡22棟、建物基壇跡2基、掘立柱穴柱建物跡3棟、瓦塔基壇跡1基、製鉄遺構5基などから、瓦塔、瓦、多量な鉄製品と文字資料(墨書・ヘラガキ土器)が出土し、いわゆる「村落内寺院」として学会に取り上げられました。

萩ノ原遺跡全景 (北から)

萩ノ原遺跡全景 (東から)

萩ノ原遺跡遺構配置図

1号基壇全景 (南から)
基壇は8×8メートルの方形で土を積んで造っていますが、強固ではありません。
基壇上には砂岩製の礎石と2カ所の根固めがあり、柱間3×3間の建物が復元できます。
南側に5段の階段造り出され、鎮壇具として「佛」とかかれた墨書土器や、釘が赤色顔料の付着したをものを含め、10数本束の状態で見つかっています。
基壇上面に焼土が認められることから、建物は焼失したと考えられます。

2号基壇調査風景 (北から)
点状にみえるのが遺物で、300点を超える釘や鎹などの建築部材のほか、鉄製の風鐸・風招などが出土しています。

2号基壇鉄刀出土状況

2号基壇鉄刀出土状況
2号機壇中央部の土坑から、鉄刀がきっさきを上にした状態で出土しています。
状況から土地を浄め、建物に災いが無いように埋められた鎮壇具と考えられます。
同じような例は限られ、市内では能満の南大広遺跡に1例のみ。
七宝(金や銀、水晶などの経典で定める宝)など、鎮壇具を埋納するのは金堂や塔が多いことから、この遺構も仏堂と考えられます。

1号柱穴列 (西から)
東西方向に約14.8メートル、南北方向に約15メートルを測る掘立柱建物跡で、建物構造から、僧坊に比定されています。

2号基壇 (北から)
基壇は8×8メートルを測り、ほぼ1号基壇と同規模です。
ただし、礎石・階段は認められません。
遺物の出土状況から自然倒壊したと考えられます。

蕨手刀(上:南大広遺跡)と鉄刀(下:萩ノ原遺跡)
上写真の下側の鉄刀は、2号基壇の鎮壇具として埋められていました。
上の刀は柄の形から「蕨手刀」と呼ばれる特殊な刀で、市内の別の遺跡から見つかったものです。
萩ノ原遺跡の鉄刀と同じように、基壇の鎮壇具として埋められていました。

風鐸(上写真右上)・風招(上写真下)・釣金具?(上写真左)
風鐸は2号基壇脇、風招・釣金具は6号住居跡から出土しました。

土師器香炉蓋

灰釉陶器 浄瓶

土師器 杯 墨書「寺」

土師器 杯 墨書「□ (記号) 寺」

土師器 杯 墨書「(記号)」

土師器 杯 墨書「寺塔」

土師器 甕 墨書「仏」
瓦塔は、木製の小型五重塔を模したものと考えられています。
8世紀末から9世紀中葉に最盛期を迎え、9世紀初頭までに、2mを超えるものから小型化するという指摘があります。
この萩ノ原瓦塔は、最頂部に立つ相輪のうち、九輪の一部を欠失していますが、本来は2mを超え、全国的に見ても、完全復元可能な数少ない資料です。
状態もよく、元来は彩色されていたことが、2、3層組物の一部に残る赤彩からわかります。
出土した160点を超える墨書土器のなかに、「塔寺」や「寺塔」という文字があり(写真参照)、それらの土器の編年から、瓦塔の時期を推定する有効な資料となっています。
瓦塔は、市内では他に2例の出土しています。
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更新日:2022年04月18日