ノート036瓦の話 -第4回 宝相華文軒丸瓦-【考古】

更新日:2022年04月18日

研究ノート

高橋康男

 今回は、上総国分寺跡から出土した軒先瓦の中から、宝相華文(ほうそうげもん)軒丸瓦を紹介します。
 そもそも宝相華というのは、空想上の植物です。中国、唐代の唐草文様のうち、ふくらみをもった花を想像させるようなものを宝相華文と呼んでいます。「ほっそうげもん」ともいわれます。宝相華についてのはっきりした規定はありません。国史大辞典(吉川弘文館)では「・・空想的な植物文を主体とし、現実的な牡丹花などの形態も濃厚にとりいれ、自由奔放に各種のモチーフを加えた豊麗な花唐草である」と記載されています。唐での流行の影響をうけ、わが国でも、奈良時代に流行しました。

 宮都系の瓦を採用する国分寺が多い中で、下総国分寺(千葉県市川市)は創建段階から軒平瓦も軒丸瓦も宝相華文の瓦を使い続けたことがわかっています。
 上総国分寺に関しては、補修瓦をつくったと考えられている南田瓦窯跡から、数点ですが宝相華文の軒丸瓦が出土しています。上総国分寺の瓦の整理作業は、現在も継続中であり、確定的なことを語れる段階ではありませんが、これまでにわかったことを、写真と共に以下に示すこととします。なお、一部の資料については、『千葉県の歴史 資料編 奈良・平安時代』で既に示されていますので参照いただければと思います。

メジャーと瓦の一部を写した写真。約16センチメートル。

内区の二重圏線と花弁の表現の単純さが特徴と言えます。内区は小さく、内部に微小な連子が配されます。

上の瓦を真横から写した写真。

瓦当面と丸瓦の接合部が鋭角です(上の資料を真横からみたもの)

瓦の一部とメジャーを写した写真。約9センチメートル。

外区の圏線が二重にめぐり、その間に蓮子が配されます。
外縁の高まりは部分的で、描線は低く、か細いものです。

残念ながら、いずれも破片資料で全形を知ることはできませんが、

  1. 瓦当面外縁の凸帯状の高まりがない。
  2. 2本の外区圏線間に蓮子が配される。
  3. 描線は概して細く、高さがない。
  4. 瓦当面と取り付く丸瓦の角度は鋭角である。
  5. 花弁の表現は単純で、付加的な修飾がない。
  6. 花弁は10弁あるいは11弁と推測される。

 大略、以上のような点を特徴として指摘できると思います。

 下総国分寺の資料との関係が気になるところですが、少なくとも現段階では一致する部分が少なく、直接的な結びつきを想定することは、難しいのではないかと考えられます。
 宝相華文は、瓦に限らず仏具などに多用されていたと考えられますので、下総との関係のみにとらわれず、上総国分寺の瓦屋で独自に採用された文様と理解したいと考えています。都城系の影響の系譜から離れ、独自性を示していることが、瓦だけでなく上総国分寺の経営総体の独自性の一端を示しているものとも考えられます。

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